にも書ける!声人語  〜略して君天〜

【天声人語】 2005年10月19日(水曜日)付

【君天ver.】 2005年10月19日(水曜日)付

 小さなブタにひもをつけて散歩をさせている女性を何度か見たのは、3カ月ほど前だった。高速道路の下を車が激しく行き交う東京都心の交差点を、ピンク色のブタがちょこちょこ行く。

 小さな漁船に隠れ部屋をつくって不法入国者を密航させている不審船を何度か見たのは、3年ほど前だった。高速特殊警備船が配備された深夜の日本近海を、中国の密航船がちょこちょこ行く。

 先月は、同じ東京の中野区で、逃げ回る3匹の子ブタが捕まった。ペットとして飼われていたガレージのフェンスのすき間から逃げ出したという。

 先月は、同じ東京の歌舞伎町で、逃げ回る3人のアジア系外国人が捕まった。ペット用に使われていたガレージのフェンスのすき間から逃げ出したという。

 日本の各地で、意外な動物が町の中や他人の家で見つかる騒ぎが目につく。記事の見出しを拾ってみる。「押し入れにニシキヘビ」「イグアナが日光浴?」「庭に毒サソリ」「路上にオオサンショウウオ」「凶暴なり カミツキガメ」

 電車に乗ると、意外なダジャレを使うAERAの吊り広告が目につく。真似して見出しを作ってみる。「押し入れにニシキノアキラ」「女子アナが日光行く?」「宅配便に毒物」「ドジョウにオオサンショウウオ」「三河弁なり やっとカメ」

 なかなかの迫力だが、動物たちにしてみれば、人間の勝手で連れてこられた場所で、何とか生きようとしているだけだ。気味が悪いとか、凶暴などと言われるのは心外だろう。

 なかなかの寒さだが、AERAにしてみれば、電車広告のもっとも目立つ場所で、何とか目を引こうとしているだけだ。出来が悪いとか、低俗などと言われるのは心外だろう。

 3匹の子ブタを捕まえた警察署では、住民から様々な「ペット逃走」の通報があるため、巡回のパトカーに捕虫網を常備しているという。署の幹部が語る。「警察には困りごと処理のコンビニのような機能もあるので、通報があれば捕まえにゆく。でも捜査や事故処理などの本来の職務に支障が出ないか心配になる」

 3国の不法滞在者を捕まえた警察署では、住民から様々な「外国人犯罪」の通報があるため、巡回のパトカーに捕虫網を常備しているという。署の幹部が語る。「警察には不法滞在者処理のコンビニのような機能もあるので、通報があれば捕まえにゆく。でも捜査やねずみ取りなどの本来の職務に支障が出ないか心配になる」

 動物は、閉じこめられるのがいやだろうし、常に閉じこめておくことも難しい。オリやかごから出ただけで周りが驚き、恐れるような動物たちにも、それぞれ命がある。もともと身近ではなかったその命が、見知らぬ人間社会の中に置かれている。

 不法滞在者は、捕まるのがいやだろうし、全員を捕まえて強制送還することも難しい。オリやブタ箱から出ただけで周りが驚き、恐れるような外国人犯罪者たちにも、それぞれ再犯の可能性がある。もともと身近ではなかったその存在が、知らずに地域社会の中に置かれている。

 そういえば、あの交差点のブタをしばらく見ない。元気にしているだろうか。

 そういえば、あの菅沼栄一郎をしばらく見ない。元気にしているだろうか。

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