にも書ける!声人語  〜略して君天〜 番外編

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西日本新聞

【社説】2006年8月26日(土曜日)付

むしろ存在感が強まった 冥王星


東京新聞

【社説】2006年8月26日(土曜日)付

冥王星除外 見上げてごらん星空を


「惑星」(planet)の語源はギリシャ語の「さまよう人」(planetai)にあるという。各惑星は太陽の周りを異なる周期で公転しているため、夜空を左右にふらふら動くように見えることから名が付いた。
 国際天文学連合(IAU)が、これまで太陽系の第9惑星とされてきた冥王星(プルート=Pluto)を惑星から外し、水星から海王星までの8個とする新しい惑星の定義案を可決した。
 冥王星は、米国の天文学者クライド・トンボーが1930年3月に「新しい惑星の発見」として発表した。他の惑星の公転軌道に比べ、冥王星の軌道は約17度傾いている。真円に近い他の惑星と違って細長い楕円(だえん)軌道だ。だから最近では、79年から99年の間は海王星の軌道よりも内側にあった。
 この風変わりな天体が惑星に加わって76年になる。太陽から最も遠くにいる兄弟星として慣れ親しんできただけに、いまさら「仲間外れ」にするのは寂しい。冥王星に済まない気もする。
 太陽から近い順に「水・金・地・火・木・土・天・海・冥」と口ずさんでいたのに、今後は海王星でやめなくてはならず、教科書も書き換えられる。
 こうした戸惑いの半面、宇宙を見つめる人類の「視力」が目覚ましく向上したことにあらためて感慨を覚える。ハッブル宇宙望遠鏡やハワイ島マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡、探査機ボイジャー1・2号などの活躍で、太陽系だけでなく宇宙自体の最も深い部分まで見えるようになってきたからだ。
 惑星の定義を書き換えることになったのは、太陽系や宇宙に関する新しい発見と研究の深まりに伴う自然な成り行きでもあった。
 ただ、IAU総会での冥王星をめぐる議論は、夜空における惑星の見せ掛けの動きさながらに迷走した。
 当初は、火星と木星の間にあるセレス、冥王星に近接しているカロン、その外側に軌道がある「2003UB313」の3つを加えて、12惑星とする案が提案された。
 ところが、「これらに似た小天体はほかにもたくさん見つかっている」「そもそも惑星とは何なのか」といった議論の末に、冥王星を惑星から外して「矮(わい)惑星」に分類することにしたのだった。
 その上で冥王星は、近くの軌道を回っているたくさんの小天体の代表と位置付けられた。惑星から外されても、存在感の際だった天体の1つであり続けることに変わりはない。
 冥王星の公転周期は約248年。人間に発見されてからまだ、太陽の周りを3分の1周もしていない。人間がその間に「惑星の仲間だ」「いや違う」と揺れたことには無頓着そうに、この星はほかの惑星たちとは異なった個性的な振る舞いで宇宙をさまよい続けている。
 

西日本新聞朝刊2006年08月26日00時47分

 太陽系の惑星として長年親しまれてきた冥王星が惑星から除外された。自然への興味を示さない子供が増えているが、この変更を教材として自然や広大な宇宙に思いをめぐらす好機としたい。

 チェコの首都プラハで開かれた第二十六回国際天文学連合(IAU)の総会は、太陽系惑星の定義を(1)太陽の周囲を回る(2)質量が大きく自分の重力でほぼ球形(3)軌道上で圧倒的に大きい−の各条件を満たしている天体、と決めた。

 この条件を冥王星に当てはめると、冥王星は海王星と軌道が一部重なり、しかも海王星よりはるかに小さい。従って、(3)の条件を満たしていないことになる。

 このため、太陽の周りを回っているものの、小さく、軌道の近くに同じような天体が存在する「矮(わい)惑星」のジャンルに入れることになった。

 冥王星は一九三〇年、米国の天文学者によって発見され、以来、七十六年間、太陽から最も遠い軌道を回る惑星として親しまれてきた。

 日本でも、太陽から近い順に「水金地火木土天海冥」(スイキンチカモクドテンカイメイ)の語呂が、あまねく知れ渡っているほどである。除外に寂しさを訴える声があることも、感情的には理解できる。

 昨今の日本の子供たちは、宇宙の神秘にあまり興味を示さない。データを示そう。

 国立天文台の縣(あがた)秀彦助教授らの調査によると、「太陽が地球の周りを回っている」と考える小学生は高学年でも四割。「太陽は西の方角に沈む」と正しく答えられなかった児童は約三割。これでは、人間の力の及ばない宇宙の神秘に、畏敬(いけい)の念を抱け、といわれても抱きようがないだろう。

 冥王星が太陽系の惑星から除外されたことにより、世界中の教科書が一斉に塗り替わる。文部科学省によると、日本では惑星について学ぶのは「理科第二分野」で、中学三年のときである。

 教育現場では、世界中で話題となったこの変更を、宇宙に興味を持たせる絶好の機会ととらえてほしい。

 それには除外された理由を丁寧に説明してみてはどうか。太陽と地球、そして各惑星との位置関係や軌道などを、コンピューターグラフィックなども交えて分かりやすく教える。そうすれば、宇宙に興味を示す生徒も増えてこよう。「水金地…」の語呂から「冥」を省けばそれでこと足りる、というような教え方は論外である。

 これから秋を迎えると、夜空が澄んでくる。星を眺めて、宇宙に思いをめぐらせてみようではないか。

【評】

【評】社説1

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