太陽系に惑星は九つ。一番遠い惑星は冥王星__。そんな常識が、約80年ぶりに変わる。
国際天文学連合(IAU)があいまいだった惑星の定義を整理し、冥王星がそれにあてはまらなくなったためだ。
IAU総会が開かれたプラハには、日本も含めて世界のメディアが詰めかけ、「惑星降格」などの大見出しで報じられた。まるでスキャンダルの責任でも取らされたかのようで、冥王星にはちょっと気の毒なことになった。
一天体の「処遇」がなぜこれほど関心を呼ぶのか。首をかしげた人が多かったかもしれない。だが、天文学にとって、私たちのふるさとである太陽系の成り立ちは最大のテーマの一つなのだ。
1930年に発見された冥王星は、あまりに遠くてよくわからなかったが、この30年ほどで観測が進み、変わり者ぶりが明らかになってきた。
月より小さいし、軌道もほかの惑星に比べてぐんと傾いている。地球のような岩石でできた惑星や、木星のようなガスの惑星とも違い、氷でできている。これで本当に惑星といえるのか、そんな疑問が出されていた。
冥王星の周辺には、似たような氷の天体が数多くあることもわかってきた。05年、冥王星より大きい天体が確認され、ついに放っておけなくなった。冥王星が惑星なら、こちらも惑星とせざるを得なくなるからだ。
今回の総会では、それらもひっくるめて惑星とする案も出された。だが、これだと惑星は将来、何十にも増えてしまう可能性がある。かといって、慣れ親しんだ冥王星をはずすのはしのびない。天文学者もやはり人の子である。そんなジレンマから論議は沸騰した。
惑星のでき方に関する最近の学説からすれば、冥王星はどうにも異質だ。結局、この意見が大勢を占め、太陽系の惑星は八つとすることで決着した。
冥王星などは「ドワーフ惑星」という別名称で呼ばれることになった。「矮(わい)惑星」とも訳されているが、正式な日本語名はこれからだ。若干の意訳は恐れず、「豆惑星」と呼ぶのはどうか。
新しい発見があれば、認識を改めるのは当然のことだ。宇宙観も変わっていく。科学はこうして進んできた。
とはいえ、しばらくは混乱もあるだろう。地球のきょうだいとしての冥王星は、私たちの文化に深く根を下ろしているからだ。
教科書を始め、数多くの書物が書き直しを迫られる。子供に聞かれて困る親も多いだろう。宇宙もののアニメ作品はどうすればいいのか。占星術の世界も大騒ぎだ。
米国の宇宙探査機「ニューホライズンズ」が、冥王星をめざして飛んでいる。9年がかりの旅で15年に到着する予定だ。新名称で呼ばれる星の探査は初めてのことだから、未知との出会いがいっそう楽しみになった。
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この約10日間、世界の人々の関心がチェコのプラハで開催された国際天文学連合総会に集まった。「惑星の定義」をめぐる白熱した議論が戦わされたからである。
討議の核心は冥王星を惑星として認め続けるかどうかだった。
冥王星の扱い次第で、これまでの9惑星から、12惑星に増えたり、8惑星に減ったりする。そういう可能性の幅がある議論だった。
「水金地火木土天海冥」として親しんできた惑星の顔ぶれが変わるのだから、ニュースが地球を駆け巡ったのも当然だろう。
最終日に会場で行われた採決の結果、冥王星は新たに定められた惑星の定義に当てはまらなくなって除外され、太陽系の惑星は8個となった。
新惑星を仲間に迎える楽しみは消えたが、科学的には非常に明快な結論である。それを歓迎したい。
冥王星が新惑星として、太陽系の果てで発見されたのは1930年のことだった。米国の天文台による、公転軌道の高度な計算と大型望遠鏡を駆使した科学技術の勝利だった。
しかし、その後、技術のさらなる進歩で観測精度が向上すると、冥王星が非常に小さいことが判明した。公転面も傾いていて、他の惑星とは異質であることが明らかになってきた。
そうした科学的事実を踏まえての総会だった。近年、太陽系には冥王星より大きな天体も見つかっていた。だから冥王星の扱いを含めて、惑星とはどんな天体のことなのか、その定義をはっきりさせる必要があったのだ。
定義案は二転、三転したが、今回の活発な議論には意味があった。そのひとつは人々の天文学への関心を呼び覚ましたことである。惑星とは何かを多くの人が考えた。家庭や職場でも話題になったことだろう。
天文学は基礎科学だ。特許や産業応用とは直結していない。「お金にならない」分野の研究は近年、片隅に追いやられがちだった。そうした天文学の成果を反映した話題が大きな反響を呼んだ。惑星科学が文化や歴史にしっかり根を下ろしている証しだろう。
第9惑星として親しまれた冥王星は遠方にある他の小天体発見のきっかけにもなった。76年間の長きにわたって果たした役割は大きい。
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