「惑う星」と書く呼び名の通り、紆余(うよ)曲折の末、やっと「惑星」の定義が決まった。
最大の焦点は、冥王(めいおう)星が惑星に残れるかどうかだった。チェコのプラハで開催された国際天文学連合(IAU)の総会は、冥王星を惑星から降格させる定義を採択した。
これにより、太陽系の惑星は、「水金地火木土天海」の八つに減る。
定義では、〈1〉太陽を周回し、〈2〉自らの重みで球状に固まり、〈3〉周回軌道の周辺に、衛星を除いて他の天体がない、ことが惑星の条件となる。
冥王星の近くでは、同じような天体がいくつも見つかっていて、〈3〉の条件を満たさない。惑星とは別に設けられた天体の種類「矮小(わいしょう)惑星」に分類される。
冥王星については、これまでも、惑星と呼んでいいかどうか論議があった。
地球の衛星である月よりも小さい。周回軌道も、他の惑星と違って、大きく傾いている。惑星と呼ぶには、確かに、科学的に疑問があった。
そうした問題があるのに、基本的な天体である「惑星」の定義はなかった。それを科学的に語れるほど、宇宙観測技術が進歩し、知見が蓄積されたということだろう。
ただ、惑星は天文学者だけのものではない。今回の定義が一般の人に誤解されないよう、この分野の専門家は、きちんと説明し、理解を広めてほしい。
冥王星は1930年、9番目の惑星として見つかった。米国人が発見した、ただ一つの“惑星”でもある。これまで惑星とされてきたのは、そうした米国内の愛着が理由の一つだった。
IAUも当初、定義案に冥王星を含めていた。そのため、惑星の条件を広げる付帯事項があり、定義の内容が複雑なものになっていた。だが、これではいずれ惑星は50個以上になり、太陽系が惑星だらけになる、と反対された。
科学の歴史を振り返れば、定義や原理の多くは、簡明で分かりやすい内容になっている例が多い。その方が結果的に応用範囲も広がる。
天動説から地動説への転換は、その例だろう。惑星の軌道がすっきりと計算できるようになり、後に、万有引力の法則の発見につながった。
米国では、決定を許した天文関連の博物館に抗議が殺到するなど、波紋が広がっている。日本でも、教科書をどう書き換えるか、博物館の展示をどう変えるかといった動きが相次いでいる。
だが、これは好機だ。宇宙と太陽系に注目が集まった。理解が広がり、宇宙の研究が進む足がかりになるといい。
(2006年8月26日1時45分 読売新聞)
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