にも書ける!声人語  〜略して君天〜 番外編

全国紙5紙の社説読み比べ(2)

毎日新聞

【社説】2006年8月26日(土曜日)付

惑星定義

論争が科学を面白くする


読売新聞

【社説】2006年8月26日(土曜日)付

[冥王星降格]

「観測技術が変えた『惑星』像」


 二転三転した議論の末に、冥王星が惑星の座を降りることになった。惑星が「えらい」わけではないが、なんだか腑(ふ)に落ちないという人は多いだろう。
 冥王星は1930年に米国のトンボーが発見した。米国人が発見した惑星はこれだけで、ディズニーのキャラクターの名前になるほど愛着を持たれてきたという。日本でも「水金地火木土天海冥」と言い習わしている。いきなり「惑星ではない」と言われたら、戸惑うのは当然だ。
 だが、天文学の世界では、以前から冥王星が惑星かどうかに疑問符が付けられていた。地球の月より小さく、公転軌道も傾いただ円で、他の惑星とは異なる。しかも、冥王星の近辺に類似の小天体が次々と見つかるようになった。その数は1000を超える。
 追い打ちをかけたのが、03年に発見された天体「2003UB313」だ。冥王星と同程度か、それ以上の大きさがある。冥王星が惑星なら、この天体を「第10惑星」といってもおかしくない。
 冥王星を降格するか、惑星の数を増やすか。国際天文学連合(IAU)の当初案は惑星を増やして冥王星を救う内容だった。だが、この定義に従うと惑星の数は今後も増えていく。これでは教育現場が混乱するなどの反論が相次ぎ、論争は市民の間にまで広がった。
 結局、IAUは「太陽の周りを回り、自らの重力で球状となり、軌道周辺で際立って大きい天体」との太陽系惑星の定義を可決した。これに従うと惑星は水星から海王星までの八つとなる。冥王星は「ドワーフ・プラネット(矮(わい)惑星)」に分類される。
 「冥王星に対する人々の夢にも配慮を」「惑星数の増加は天文学の進歩を示す」といった見方にも一理ある。だが、冥王星の分類が変わったところで、冥王星の存在自体は揺るがない。
 それよりも注目したいのは、今回の論争が関心を集め、太陽系の天文学のおもしろさが一般の人にも伝わったことだ。
 太陽系の仲間はこれまで慣れ親しんできた古典的な惑星や月だけではない。海王星の外側には、小さな天体の帯が広がっている。これらの天体はほうき星の元としても、太陽系誕生の歴史を知る手がかりとしても注目される。想像以上に広大な太陽系の姿に驚いた人もいるのではないか。
 「事実はひとつ」というイメージのある科学の課題が、天文学者の多数決で決定されたことへの違和感を訴える声も聞く。だが、科学的な定義や分類も、科学の進展によって変化する。冥王星が惑星の分類からはずれたのも、観測技術が進歩し、冥王星の仲間が多数見つかったためだ。
 教科書の書き換えなどが必要になるが、あせることはない。教師や親は子供たちに今回の論争をやさしく説明し、教科書を補ってほしい。幸い、夏休みもまだ少し残っている。今回の騒動を題材に、子供をつれてプラネタリウムや天文台、科学館などを訪ねてみてはどうだろう。
毎日新聞 2006年8月26日 東京朝刊

「惑う星」と書く呼び名の通り、紆余(うよ)曲折の末、やっと「惑星」の定義が決まった。

 最大の焦点は、冥王(めいおう)星が惑星に残れるかどうかだった。チェコのプラハで開催された国際天文学連合(IAU)の総会は、冥王星を惑星から降格させる定義を採択した。

 これにより、太陽系の惑星は、「水金地火木土天海」の八つに減る。

 定義では、〈1〉太陽を周回し、〈2〉自らの重みで球状に固まり、〈3〉周回軌道の周辺に、衛星を除いて他の天体がない、ことが惑星の条件となる。

 冥王星の近くでは、同じような天体がいくつも見つかっていて、〈3〉の条件を満たさない。惑星とは別に設けられた天体の種類「矮小(わいしょう)惑星」に分類される。

 冥王星については、これまでも、惑星と呼んでいいかどうか論議があった。

 地球の衛星である月よりも小さい。周回軌道も、他の惑星と違って、大きく傾いている。惑星と呼ぶには、確かに、科学的に疑問があった。

 そうした問題があるのに、基本的な天体である「惑星」の定義はなかった。それを科学的に語れるほど、宇宙観測技術が進歩し、知見が蓄積されたということだろう。

 ただ、惑星は天文学者だけのものではない。今回の定義が一般の人に誤解されないよう、この分野の専門家は、きちんと説明し、理解を広めてほしい。

 冥王星は1930年、9番目の惑星として見つかった。米国人が発見した、ただ一つの“惑星”でもある。これまで惑星とされてきたのは、そうした米国内の愛着が理由の一つだった。

 IAUも当初、定義案に冥王星を含めていた。そのため、惑星の条件を広げる付帯事項があり、定義の内容が複雑なものになっていた。だが、これではいずれ惑星は50個以上になり、太陽系が惑星だらけになる、と反対された。

 科学の歴史を振り返れば、定義や原理の多くは、簡明で分かりやすい内容になっている例が多い。その方が結果的に応用範囲も広がる。

 天動説から地動説への転換は、その例だろう。惑星の軌道がすっきりと計算できるようになり、後に、万有引力の法則の発見につながった。

 米国では、決定を許した天文関連の博物館に抗議が殺到するなど、波紋が広がっている。日本でも、教科書をどう書き換えるか、博物館の展示をどう変えるかといった動きが相次いでいる。

 だが、これは好機だ。宇宙と太陽系に注目が集まった。理解が広がり、宇宙の研究が進む足がかりになるといい。

(2006年8月26日1時45分 読売新聞)

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