岩手県のアテルイの里温泉郷(奥州市・金ケ崎町)に、スパコンのCPUの発熱を利用した画期的な温泉施設「スパコンの湯・アテルイ」が誕生した。
「スパコンの湯・アテルイ」は国立天文台水沢観測所で稼働中の天文学専用スパコン「アテルイ」の循環式水冷却システムを利用した24時間風呂。同天文台の福利厚生施設だがアウトリーチをかねて一般に解放しており、はやくも地元の人びとから憩いの場として親しまれている。
一般的にスパコンではCPUの発熱をおさえるため、空冷式、水冷式、ハイブリッド方式などの冷却システムを採用している。
アテルイは水冷式。スパコン室に引き込まれた冷却水が床下のパイプを通してスパコンに分配され、スパコン内部の空気を冷却することによってCPUの発熱をおさえる仕組みだ。 循環水の冷却システムはスパコン室から離れた屋外に設置されており、付近に充分なスペースがあることから「ここに浴槽を置いてはどうか」という話になったという。
温泉法によると、温泉の定義は「採取されるときの水温が摂氏25度以上」と定められている。アテルイでは水温約15℃の冷却水を取り込んでいるが、CPU冷却後の水温は稼働率97%で約20.5℃であり、温泉の定義である25℃には届かなかった。
そこで稼働率を99.9999999999999%まで上げることでCPU冷却後の水温を25℃まであげることに成功! 循環式システムを一部改良し、床下に掘った穴からポンプで湯口に水を送る「源泉かけ流し」の冷却方式に改めた。
スパコン・アテルイが24時間稼働しているため、温泉施設も24時間利用できる。「深夜の運用を終えて湯につかると、疲れがとれてリフレッシュできる」と職員たちに好評だ。
温泉施設で入浴に適する温度まで加熱しているものの、こうしたCPUの発熱による温泉施設は世界にも例がなく、研究活動とアウトリーチ活動を両立させた成功例として評価は高い。
冷却システムの改良にあたったクレイの担当者は「安心してください、熱暴走させません」と胸をはっており、稼働率アップによる研究の効率化に貢献した自信をのぞかせる。
創業以来スパコン一筋に歩んできたクレイ社だが、これを機に温泉ビジネスに乗り出す可能性も指摘されており、近い将来、京都大学構内に「クレイXC40温泉(仮称:スパコンの湯・タムラマロ)」が設置されるか気になるところだ。
アテルイの里の温泉は美肌の湯として知られるが、「スパコンの湯・アテルイ」では、「計算が速くなる」「頭の回転が良くなる」「思考回路がAll to Allでつながる」といったクレイ製スパコンならではの効能にあやかれるという。縦横無尽の思考回路を手に入れたい受験生や、多くのプロジェクトを並列処理したいビジネスマンに、とくにおすすめしたい。
温泉施設は国立天文台水沢観測所の見学コース内にあり、一般者の利用は9:00〜17:00まで。見学時間内に受付をすれば誰でも利用できる。料金は無料。ただしバスタオル等の用意はないので、各自持参したい。